東京大学 伊藤研究室

東京大学大学院医学系研究科 疾患生命工学センター 医療材料・機器工学部門

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Research

伊藤研究室で行っている研究を紹介します。

  • 研究分野1:医用ハイドロゲルの開発
  • 研究分野2:医用微粒子の開発:ナノ粒子からマイクロ粒子まで
  • 研究分野3:疾患治療への応用

過去の卒業生の研究テーマはこちら

研究分野1:医用ハイドロゲルの開発

 注射器で注入可能なハイドロゲル(injectable hydrogel)は、低侵襲治療に有効なため非常に期待されています。生体由来の様々な多糖類やたんぱく質を骨格高分子として、生体内で安全な化学反応を用いることで、用途に応じて多種多様なハイドロゲルを創製することが可能です。投与の容易な点から、再生医療の足場材料・薬物の局所徐放担体・腹膜癒着防止材・止血材など、幅広い応用が期待されています。

 骨格高分子として、ヒアルロン酸は人体内での生体適合性に非常に優れ、非常に有用です。化粧品やコンタクトレンズケアー用品などヘルスケア製品材料としても重要になっています。またデキストラン、セルロース誘導体、デンプン誘導体などに加えて、イオン架橋性を持つアルギン酸や正電荷を持つキトサン、細胞接着性を持つコラーゲンやゼラチン、ケラチンなども有用です。

 天然高分子では設計の柔軟性に限界もあり、素材として合成高分子も非常に重要です。高分子合成法の進歩によってデンドリティックポリマーが産業応用に至っています。低粘度化、表面官能基の修飾が容易であるなど、様々な特性があり、発泡材料や紙塗工材料などに用いられるようになってきています。当研究室でも、これらのポリマーを化学修飾してビルディングユニットとしたナノサイズの星形ポリマーを創製し、新たな医用ハイドロゲルやコロイド分散系への応用研究を行っています。

 素材の開発とともに、投与法の研究も研究を行っています。一般的に、形成される材料の構造や性質は、材料とプロセスの両方に依存します。このため化学に加えて、化学工学も重要になります。投与法として、スタティックミキサーやアトマイザーなどを用いたゲル化プロセスの研究を行っています。

研究分野2: 医用微粒子の開発:ナノ粒子からマイクロ粒子まで

 医療に有用な、様々な微粒子の開発を行っています。微粒子の機能は、素材に加えて、サイズ・形状・表面物性などによって多様な働きを示します。

 サイズがナノオーダーの微粒子は、ナノ粒子と呼ばれ、バルク体にはない特異的な性質を示します。例えば、半導体であるシリコンのナノ粒子は蛍光を示しますし、金のナノ粒子は表面プラズモンによって赤色に呈色します。これらの特徴を活かし、ナノ粒子のイメージングやドラッグデリバリー担体としての開発を進めています。

 また金属配位を起点に自発的に形成する抗がん剤担持ヒアルロン酸ナノゲルの開発を行っています。サイズは10nm~数100nmの範囲であり、シングルナノ粒子とマイクロ粒子の中間程度のサイズとなっています。細胞と細胞外マトリックスの接着や細胞外マトリックスの代謝回転を利用して効率的に薬物送達を行うことを目指しています。

 マイクロ粒子は、筋肉注射による薬物徐放担体、血管の塞栓薬物徐放ビーズ、経肺製剤として応用されています。マイクロ粒子は様々な作製法がありますが、本研究室ではSPG膜乳化法を用いています。膜乳化法とは数100nm~数10μmの均一な細孔を有するガラス多孔膜を通して、連続相中に分散相を押し出すことによって、非常に均一なエマルションを作る技術です。本研究室ではヘモグロビンを封入した人工酸素運搬体(人工赤血球)や薬物徐放塞栓ビーズの開発を行っています。

 膜乳化型人工酸素運搬体の直径が1~20μmであるのに対して、アトマイザーを用いることによって直径が150μm以上の細胞封入ゲルマイクロカプセルの開発を行っています。人工膵島用途として長い間期待されているシステムですが、本研究室では機能化したイオン架橋ポリマーを用いています。

研究分野3:疾患治療への応用

 ハイドロゲルや微粒子を用いて、主に附属病院や学外医療機関との共同研究にて、疾患治療への応用研究を進めています。

再生医療・組織工学

 1990年代に、MIT/MGHのグループによって、組織工学(Tissue Engineering)が提案されました。細胞・細胞増殖足場材料(スキャフォールド)・液性因子の3種類を合わせて、プロセス制御をおこなえば、人工的に組織が作製可能ではないかと構想されました。injectableハイドロゲルやマイクロカプセルは、移植容易な足場材料として用いることが可能です。本研究室では、骨再生や膵島再生を対象に、ハイドロゲルに封入した細胞の分化、移植による機能発現や血管新生に関する研究を行っています。

ドラッグデリバリー(DDS)

 DDSとは“必要最小限の薬物を、必要な場所に、必要なタイミングで供給する”技術です。DDSの中の基本的な概念の一つは薬物徐放です。薬理効果を示す濃度以上になると副作用が大きくなり、それよりも低くなると薬剤は効果を示しません。なるべく薬理効果領域で長い時間薬剤濃度が維持されると、薬理効果の向上、副作用の低減、投与回数の低減、QOLの向上が期待されます。局所投与を中心に、胃がんの腹膜播種、中皮腫、肝硬変へのDDSを中心に研究を行っています。

癒着防止材・止血材

 胃・腸・肝臓・膵臓など多くの臓器を含む腹腔内臓器の開腹手術や腹腔鏡手術後に、臓器同士、あるいは腹腔を包む腹膜と臓器がしばしば癒着し剥れなくなります。これを腹膜癒着といいます。肝臓外科領域でも、繰り返し肝切除により、高頻度で癒着が起こり、手術の安全性低下や手術の長時間化などの原因になっています。腹腔鏡下で使用できるinjectableなハイドロゲルのメリットを生かし、新たな癒着防止材料の開発を行っています。

 外科手術において、止血は重要です。現在でも、フィブリン糊やコラーゲン製の止血材などが使われています。血液由来の物質を用いない効果的な止血材の開発を行っています。

 これらの医療機器は、低侵襲治療のための重要な要素であり、治療を安全に行うために臨床において必要不可欠なデバイスです。